昨今の大学における神話と童話

大学改革とそれによってもたらされたすばらしき世界。

価値価値

昔々あるところに、理事長と学長がいました。学長は会議に出てこれからの大学改革の方針を発表をしていていました。 「大学は社会のためになれ」 と歌いながら。
ところがそれを見ていた、優秀な研究者、田貫先生が、学長の発表を見て 「矛盾は矛盾さ」 と言って質問をして立ち往生させてしまいました。 理事長はいつまでたっても学長の方針が出てこないので変に思っていましたが、あるときそれが田貫のしわざであることが分かりました。

 そこで理事長は知らんぷりふりをして、田貫先生が会議に出てくるのを待ち、用意していた話題でつかまえました。そしてそれをきっかけに言葉巧みに、自分たちの執行部に入れておきました。 執行部の一員となれば、学長・理事長の権力は絶大です。学長は、つかまえた田貫先生を、行政の仕事漬けにしていじめました。

 「理事長。悪いタヌキをつかまえたぞ。タヌキ汁にして食おう」 といって、また権力闘争に戻りました。 会議では学長が、アカハラでいじめる準備を始めました。田貫氏は食われてはたまらんと、何とか逃げようとしますが、どうしても縄から抜けることができません。そこで学長に涙ながらに言いました。 「学長、行政の仕事がきつい。少し緩めてくれないか」 「そんなことしたら、お前は業績を作って逃げるだろう。お前に逃げられては理事長に叱られる」 学長はそういって仕事を押しつけ続けます。

田貫先生は一計を案じました。 「学長、私は悪い教員でした。食べられても仕方ない。でも、学長も論文業績を一人で作るのは大変だろう。私が手伝ってあげるよ。そして理事長には黙っていればいいだろう?」 田貫先生はしおらしく、そう言いました。すると学長はすっかりだまされてしまい 「そうかい。だったら手伝ってもらおうかねぇ」 と言って、縄を緩めました。 すると田貫先生は、いきなり学長を飛び越えて業績をつくって逃げてしまいました。 学長は、ショックのあまり寝込んでしまいました。田貫先生にだまされただけでなく、数年ぶり、十数年ぶりの業績がふいになったからです。

 学長が力無く泣いていると、ウサギのような可愛い女性教員がやってきました。 「学長、学長、どうしたの?」 学長は、ウサギに全てを話しました。するとウサギは「ひどい奴だ。私が仕返ししてアゲル(ハート)」と言って飛び出していきました。

 ウサギは田貫先生がよく行く学会で、院生を拾い始め、手なずけました。するとそこに田貫先生がやってきました。 「ウサギ先生、何してるの?」 「院生を拾っているんだよ。田貫先生も拾っておいた方がいいよ」

 ウサギ先生はちょっと美人でした。 そこで田貫先生もウサギと一緒に院生と研究をしました。 やがて院生がいっぱい集まり、データも取れましたので、二人は学会発表を始めました。ウサギは田貫先生をファーストオーサーにして、後ろにまわりました。そして田貫先生にお荷物の院生を背負わせました。そして火をつけました。

火とは、院生によるデータのねつ造、手抜きです。 <カチ、カチ> 「ウサギさん、あのカチカチいう音は何だろう」 「あれは、価値価値があるとみんな言っているんだわ」 とウサギは誤魔化しました。田貫先生はいい年なので、メールは使えても、ネットの裏はみえません。 やがて、ねつ造が噂になり、ネットに火が付き、<パチ、パチ>と音を立て始めました。 

「ウサギさん、あのパチパチいう音は何だろう」 「あれはパチパチ山のパチパチ鳥が鳴いているんじゃありません?」 とウサギはまた誤魔化しました。 

やがてネットの火は勢い良く、<ボー、ボー>と燃え始めました。 「ウサギさん、あのボーボーいう音は何だろう」 「あれはボーボー山のボーボー鳥が鳴いているんですわ」 とウサギはまたまた誤魔化しました。 

しかし、そのうち田貫先生は背中があつくなって「アチ、アチ」と叫んで、論文を取り下げて逃げました。 

次の日、ウサギは大学で実験をしていました。そこへ田貫先生がやってきました。 「見つけたぞ。このあいだはひどい院生を押しつけてくれたな」 と怒っています。ウサギが「何のこと?(ハート)」と聞きますと田貫先生は院生のことを話しました。するとウサギは 「院生は院生。ウサギにはそこまではわかりませんわ(ハート)」 と長い睫毛を涙をためていいます。すると田貫先生も「もっともだ」と納得。 


そこへウサギは 「今、新しい学部を作っているんだ。グローバル化しようと思って。田貫先生もお乗りにならない?」 と誘います。田貫先生が「面白そうだ」といいますと、ウサギは 泥をこねて学部を作りました。 そしてウサギと田貫先生一緒の学部を始めました。

 ところが新学部は泥なので、やがて溶けだし、穴があいて沈んでしまいました。 「助けてくれ!」 と田貫先生が叫びましたが、ウサギはさっさと違う船に乗り換えました。 「あなたは、前に権力者に逆らったでしょ。そのバチが当たったんだと思うんだね」 といい、放っておきました。 

かくして、田貫先生は川に沈んで死んでしまいました。